
丸の内、新たな価値で育まれるビジネス街
丸の内は日本の首都の中心に位置する有名なビジネス街ですが、その土地が1世紀以上前には広大な原野だったことを知る人は多くありません。
東京駅と皇居の間に広がるこのビジネスゾーンの歴史は、1890年に始まりました。明治政府の要請を受け、三菱グループが陸軍省所有の35万平方メートルの土地を購入し、ロンドンやニューヨークに匹敵する日本初のビジネスセンターを築くことを決意したのです。
「日本の未来をリードするビジネス街をつくることが目標でした」と三菱地所の社長兼CEOである吉田淳一氏は語ります。「しかし、町をつくることがゴールではありません。そこに住み、働き、訪れる人々とともに育みながら、その歴史的背景にも配慮する必要があります。」
三菱地所は日本最大級の不動産デベロッパーの一つであり、丸の内エリア本体に加え、大手町や有楽町を含む地域で約30棟のビルを所有しています。
吉田氏は、街づくりにおいて最も重要なのは、もともとの土地所有者や中央・地方政府、そして関係する多くの人々と協力することだと強調します。「私たちは長年、それを実践してきました」と語りました。

三菱地所 社長 兼 CEO 吉田淳一 | 的野 弘道
戦後成長期から続く丸の内の進化
日本経済が戦後の成長期に入った1950年代、三菱地所は丸の内地区で大規模な再開発プロジェクトを開始しました。30棟の旧建物を取り壊し、10年かけて13棟のより大きなビルを建設しました。さらに、東京駅北側や赤坂、青山、池袋など東京都内の広範な地域、そして横浜の「みなとみらい」地区の開発にも着手しました。1970年代半ばには、丸の内は世界有数のビジネスセンターへと成長していました。
丸の内の物語はさらに続きます。1990年代、三菱地所は老朽化したコンクリート建築の刷新を決断し、単なるビジネス街ではなく、居住者や買い物客、旅行者が交流できる洗練されたビジネスセンターへと変革を進めました。その象徴的なプロジェクトの一つが、2002年に完成した丸の内ビルディングの再開発です。高さ31メートルだった旧ビルを180メートルのタワーへと建て替え、オフィスフロアに加え、ショッピングエリアや飲食店、交流スペースを設けました。また、高さ約200メートルの新丸の内ビルディングやその他のビルも次々と建設され、2007年には高級ホテル「ザ・ペニンシュラ東京」も開業しました。その結果、2018年には丸の内ビルディング改修前と比較して、週末の来街者数や店舗数がほぼ3倍に増加しました。
未来へ受け継ぐ街づくり
都市やコミュニティの開発には、多くのステークホルダーの利害が絡み合うため、容易ではありません。吉田社長は、最も重要なのは「次世代に何を引き継ぐべきかを考えること」だと強調します。
「私たちは、未来の世代に何を残すべきかを議論する必要があります。それぞれのエリアの特性を再評価し、対話を通じてさらに発展させることが大切です」と述べ、政府がそのような対話を主導する役割を担うべきだと付け加えました。
丸の内全体を見渡すと、大手町・丸の内・有楽町という3つのエリアが、日本を代表する地区としての共通の役割を持つ一方で、それぞれ独自の特性を備えています。
例えば、大手町は日本の金融センターとして歴史的に発展してきたエリアであり、メガバンクの本社が集まっています。また、フィンテック系スタートアップ向けの会員制コミュニティ「Finolab」も拠点を構えています。東京都も、大手町を日本の国際金融センターの一つとして位置づけており、日本橋や兜町とともに、東京証券取引所や証券会社が集積するエリアとしての機能を強化しています。

丸の内の未来:歴史、文化、そしてデジタル変革
丸の内は、東京駅に面し皇居へと広がるエリアであり、日本の首都の「玄関口」だと吉田社長は語ります。東京駅の赤レンガと石造りのファサードは、開業から100年以上の歴史を持ち、2012年にJR東日本が大規模改修を行ったことで、歴史的なランドマークとして復活しました。また、この地区には長い歴史を持つ日本の有力企業が本社を構えています。
有楽町は、より文化的な要素を持つエリアです。高級ショッピング街の銀座や日比谷に隣接し、東京国際フォーラムでは国際会議や芸術イベントが開催され、帝国劇場には多くの観劇客が訪れます。「このエリアは、歴史的に文化・エンターテイメント・芸術の要素を持っています。ビジネスパーソンだけでなく、アーティストを含めた幅広い人々に魅力的な場所にする必要があります」と吉田氏は述べています。
デジタル変革と持続可能な街づくり
三菱地所は丸の内地区におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進にも取り組んでいます。このプロジェクトでは、同社が開発するアプリケーションを活用し、商業施設や宿泊施設の情報だけでなく、訪問者の位置情報や決済データに基づいたさまざまな情報を提供します。「都市の最先端機能や魅力を常に探求し続けるべきです」と吉田氏は語ります。
また、三菱地所のスローガンは「人を、想う。街を、想う。」ですが、吉田氏は「地球を、想う」取り組みをさらに強化する必要があるとも指摘します。持続可能なコミュニティを育むためには、誠実さと協力関係が新たな価値創造の鍵になると強調しています。同社は、地権者からなる地域委員会と連携し、再開発や街の管理について議論を重ねています。さらに、イベント事業では、チケット販売大手のぴあ株式会社と提携し、東京大学、東京医科歯科大学、東京藝術大学などの学術機関とも協力しています。東京藝術大学は、丸の内ビルディング内のホールで音楽、絵画、彫刻の年次イベントを開催しており、ゴールデンウィークには、音楽学生やプロの演奏家による無料のクラシックコンサートが丸の内の街角や広場で開かれています。
創造的な働き方と未来への展望
社内改革として、三菱地所は4年前にオフィス内に壁をなくしたフロアを導入し、社員同士の交流を促進しています。また、若手社員による新規事業の提案を積極的に奨励しています。
吉田社長は、丸の内地区が大手町や有楽町を含め、日本の「玄関の間」としての役割を果たすことを期待しています。「ニューヨークのフィフス・アベニューやロンドンのボンド・ストリートのように、丸の内が世界中の人々に知られ、魅力的な場所へと成長することを願っています」と語りました。